food return

京都の夏は鱧に限る

 

 京都の夏といえば鱧。でも、鱧は繊細な魚で、うまい鱧とまずい鱧の差は大きい。うまい鱧を食べたことのない人は僅かな臭みがあることを当然のように思うに違いない。私もそうだった。


 しかし、いい鱧には、そのような臭みは全くなく、ピュアで、癖のない上品な魚である。以前から、京都の美味しい食べ物には、タケノコといい、だし巻きといい、ピュアで上品なものが多いと思っていた。鱧もそうである。


 うまい鱧はとても高価。それは、骨切りの高度な技術もあるが、うまい鱧とまずい鱧とを見分ける眼力が必要だからではないだろうか。同じ鱧で、何故これほど違うのかと思う。


 鱧の料理には、「天ぷら」、熱湯に浸した「落とし」、タレで焼いた「蒲焼」、鱧の身の崩れたものを上に載せた「押しずし」、そのまま寿司にした「鱧寿し」などがある。


 「天ぷら」はうまいが、油が絡むことで鱧の本来のうまさを引き出せないように思う。


 「落とし」は湯引きのことで、初めはまずい鱧をごまかす食べ方だと思っていたけれど、うまい鱧と正しい梅干とを組み合わせると、とんでもなくうまいものだと知った。相性がバッチリである。


 「蒲焼」はハンパなくうまい。骨切りのさきの薄い身が口の中でホロリと解ける感覚はたまらない。もちろん、分厚い身も癖のない身にほのかにタレが染みて大変うまい。蒲焼を選ぶとき、タレをあまり強くしてない店がいいと思う。安い店はタレが滴るほどかかっているところがあるが、タレの味で臭みをごまかしているのではないかと思ってしまう。


 「押し寿司」は末廣寿司で買った。これは、鱧の味がしっかり味わえて、ご飯の硬さも絶妙。トータルとしてのうまさがすばらしい。さらに値段も手頃で、気軽に鱧を味わうのには丁度いいと思う。


 そして「鱧寿司」。鱧の料理の王様である。でも大変高価でもある。まともな鯖寿司といい勝負。いくつかの店で聞いてみたが、どこも一本で作るので、予約が必要で、一本13,000円~15,000円もする。一人前という概念が希薄。一人前で売ってくれるところは「さか井」しか知らない。他に1人前で売ってくれるところがあれば、是非教えて欲しい。もちろん、うまい鱧で。


 しかし、鱧を食べ始めて数年の私。どこからか「そのぐらいの経験で鱧を語るな」というお叱りの言葉が聞こえてきそうだ。