music return

ラモーの舞台音楽

 

 私がラモーの舞台音楽を聴き始めたきっかけは《レ・ボレアド》のDVDである。極めて美しい舞台、激しいバレエ、素朴だが美しい音楽。こんな世界があるのかと感激した。以降、日本語字幕もないラモーのDVDを買いあさった。と言っても、出ているDVDはわずかだが。日本での上演は皆無に等しいので、DVDで慰めるしかない。


 フランスオペラの系譜から言えば、ラモー以前のリュリ、ラモー以後のグルックがあるが、私にはそちらまで手が回らない。ラモーですら十分に掌握できてないのに、世界を広げるのは難しい。ヘンデルのオペラもあるし。


 と言いながら、ヴィヴァルディのオペラも結構聴いている。これは、神奈川県立音楽堂での《バヤゼット》の公演の影響が大きい。naïveレーベルでたくさんのオペラのCDが出ているので、それを聴いているが、ヘンデルやラモーに比べると音楽の幅が狭いような気がする。


 さて、ヘンデル、ラモー、ヴィヴァルディに共通するのは、ほぼ同時代の作曲家と言うことがある。ヘンデルは1685~1759年、ラモーは1683~1764年、ヴィヴァルディは1678~1741年。活躍した場所はロンドン、パリ、ヴェニスと違うし、実際に活動した時代も微妙に違うし、音楽的な違いも大きいけれど、私にはこの時代の音楽に惹かれるものがあるのかもしれない。


 もうひとつの共通点は、この3人のオペラに関する日本語の本がほとんどないこと。ヘンデルについては最近欧米でオペラが注目されているからか、日本でも徐々にオペラに関する本が増えている。しかし、ラモーの本は伝記も含めて皆無だし、ヴィヴァルディも管弦楽に関するものはあるが、オペラに関しては無視されている。日本でのバロック音楽のl受容は管弦楽が主であり、バロックオペラはこれまで論じられることが極めて少なかったことの証だろう。


 ラモーの伝記がないので、ラモーの生涯に関しては断片的なことしか私は知らない。50歳ぐらいまでは音楽理論家として本を出版したり、クラブサンの曲を書いていたに過ぎない。しかし、1734年に《イポリートとアリシ》を世に出して以降、次々と舞台音楽を書き、「フランス王室作曲家」として活躍したという。私たちは彼の晩年の活躍の結果を今享受している。これらをフランスの極めて美しい演出装置で見ることのできる喜びは、他に変えがたいものである。


 例えば、2006年にウィリアム・クリスティ指揮レザール・フロリサン他の演奏で、パリ・シャトレ座の舞台を日本で公演した時、私は東京まで2回見に行った。DVDで見たことのある舞台なのだが、実演のすごさはDVDでは表現できない。スピード感、豊かな色彩、いかした踊り、美しい歌、非の打ち所のない演奏と合唱。見ていて聴いていて興奮せずにはいられなかった。これがパリの最先端なんだと実感できた。


 上記の来日公演があっても、日本においてはラモーの舞台音楽の普及につながっているようにはみえない。ラモーは知名度が低いから客の入りは期待できないし、公演するにあたっても歌手・管弦楽だけでなく、バレエも本格的なものが要所にあるから、管弦楽、歌手、バレエをそろえなければ上演できない総合芸術だからだろう。しかし、だからこそ上演して、日本でも新しい文化を広げていくべきではないだろうか。ラモーの舞台上演を強く期待したい。


 でも、本当はフランスに行って、美しい舞台を堪能したいというのが私の本音ではある。