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syousouin2010

第62回正倉院展2010

 

 今年も正倉院展に行ってきた。


 昨年は行くことができなかったが、それまでは10数年毎年通っている。正倉院展は、本来は大変地味な展覧会だったが、それでも一回の展覧会で、2,3点は心を大きく揺さぶられるものに出会えるので、毎年通っていたわけだ。ただ、最近は、華やかな御物の出品数が多くなって、以前の正倉院展と明らかに変わったような気がする。


 奈良国立博物館も独立行政法人になり、スポンサーも付いて、展示品も観覧者に配慮したものになったのだろうと思う。


 でも、私は、以前の地味で、長い年月を強く感じさせる正倉院展も大好きだった。


 さて、今年の正倉院展でよかったもの。


「蜜蛇絵皮箱」
皮の箱に漆を塗って外側に銀泥で模様をつけたよくあるパターンの御物。模様が細密で、銀泥に漆の赤が染みてとても綺麗。なかでも鏡で見る裏側の模様の美しさはが最高。


「浅縹布」
大きな藍染の反物に白い雲様の文様が入ったもの。極めておおらか。目を留める人は少ないけれど、私は正倉院ならではのすばらしい宝物だと思った。今回の宝物の中では、私はこれが一番好き。


「佐波理水瓶」
真鍮色の水差し。綺麗な形、適度な大きさ、顔のワンポイントがキュート。形だけで勝負できる逸品。


「曝布彩絵半臂」
こんなぼろぼろの上着に綺麗な絵が残る。裏側の絵の美しさといったら、この世のものとは思えない。こういうものが現代まで残ってくれていると事を心から感謝したくなる御物である。


「銀壺」
でかい!そこに細かい絵がちりばめられている。見ていて思わず顔が緩んでしまう。


「銀平脱鏡箱」
今年の目玉の一つ。文様がきれいに残ってすごく美しい。まあ、銀の細工物を仕込んだ箱の漆を削って文様を浮かびだしたものだから文様が綺麗に残る確率は高いのだが、思わず見とれてしまった。


「遠江国調黄絁」
黄色く染められた絹の反物。使われた形跡がなく、色もあせてない。ビックリしたのは縁。全く乱れず見とれるほど美しい。虫に食べられることもなく、痛みが全く見られない。1000年以上経てこんなに綺麗に残っているのは奇跡に近いと思う。


「色麻紙(58-1)」
麻紙の色見本。5色の麻紙が数枚組み合わされた巻物。ピンク色の宝物なんて初めて見た。それもきわめて美しい。横から見たらまるで虹色のバームクーフェン。58-2の色のあせ方(と言ってもこちらも美しいが)を見ると、58-1の鮮やかな色の美しさも奇跡に近いのではないだろうか?


 今年も充実した正倉院展だった。もちろん、今年一番の目玉である「螺鈿紫檀五弦琵琶」も見た。こういう誰が見ても美しいと思う御物もすごいと思うが、それ以外の一見地味な御物にもすばらしいものが一杯ある。


 やっぱり何度行ってもいいものに出会える展覧会である。だからいくら混雑していても通うのをやめられない。
(2010.11.07)