沼尻竜典オペラセレクション ベルク歌劇《ルル》3幕完成版 2/2
ゲシュヴィッツ伯爵令嬢の小山さんも低音の魅力にうっとしました。声も力強い。3幕最後の「ドイツに帰って大学にはいる」のくだりは渾身の迫力を感じました。
男性陣もまずまず。シゴルヒの大澤健さんは怪しい雰囲気がルルの育て親で金をぜびりに来る役にぴったりの声だし、アルヴァの高橋淳も画家・黒人の経種廉彦さんも声がよく出ていました。ただ、シェーン博士・切り裂きジャックの高橋祐樹さんだけが、声量が他の人より足りないなと思いました。代役だからでしょうか?
全体的に歌手は皆音程もよく、声も出ていたと思います。こんな難曲でしっかり練習したのでしょうね。
管弦楽は、まあよかった。役割はしっかり果たしたとは思います。でももう少し迫力が欲しい。例えば弦の厚み。室内楽的な音楽が多い中で、ルルが殺される前の音楽は、しっかりした分厚い弦が要求されます。まあ、それを出せというのは人数の少ない大阪センチュリーでは難しいでしょう。私の頭の中にはかつてウィーンで聴いた驚異的な音楽の印象が残っているので、こんな印象を持つのかもしれませんが。
指揮は、まあ、こんなものでしょうか。1幕の途中と3幕の途中で、だるいなと思いましたが、それ以外はまずまず。このオペラで必須の音の切れが出ていたと思います。
とまあこれまでは良かったのですが、問題は演出です。音楽の邪魔をしないけれど、ルルの音楽から何かをしようという意図が感じられませんでした。3幕通して同じ舞台なのはルルが孤児からのし上がって最後は没落して殺されるという筋を明確にするのは難しいでしょう。 装置は周囲を開かれた舞台上にソファとテーブル、周囲にいくつかのドアと、舞台下につながる階段。歌手はこの階段を使って舞台を出入りします。舞台の上で、何かやって、階段を下りていくだけこの舞台で何か変化をつけるとしたら、光の使い方ぐらいでしょうが、それも弱い。背景を奥舞台に投影していたけれど、だから何?という感じ。。パンフの「舞台ノート」では「ファン・ファタールは古臭い」とかびわ湖ホールのブログに「ルルというサーカス」とか言う文字がありますが、どちらも音楽を消化できないまま舞台にかけている様に思えてなりません。
とまあ、演出に課題はありましたが、一回だけの公演ですし、舞台に十分な資源を出せなかったのかもしれません。でも音楽的には大変充実していたと思います。こんなハイレベルの《ルル》を聴くことができて本当によかった。故若杉さんのときはヴェルディの初期のオペラの公演をするといった画期的なプロデュースをしていましたが、沼尻さんには若杉さん以上にこれからもびわ湖ホールで挑発的で画期的な公演をプロデュースして欲しいと思いました。