クリストフ・ルセ クラヴサン・リサイタル
センターホール
クラブサン組曲ニ短調
フランソワ・クープラン:
クラブサン曲集第3巻17組曲ホ短調
ルイ・クープラン:
クラブサン組曲ニ短調
フランソワ・クープラン:
クラブサン曲集第2巻8組曲ロ短調
(アンコール3曲)
クリストフ・ルセが東日本大震災のチャリティリサイタルを開くため来日してくれた。大阪茨木でも開催すると言うので迷うことなくチケットを買った。
会場は茨木市クリエイトセンター・センターホール。茨木市が会場を無償で提供してくれたらしい。
茨木?と思ったけれど、関西公演の主催者が茨木在住らしく茨木市内でいろいろ活動をしているようで、市役所とも話をつけやすかったのかもしれない。
さて、会場は満員で通路や舞台上にも座席を置いていた。雰囲気的には、クラヴサンを静かに聴くというより、町内会の集まりで来た、みたいな乗りの人が一杯。茨木市や商工会などが必死で集めたのかもしれない。会場はざわつきそうだ。エアコンの音もうるさい。
ルセがでてきて、さらに司会もでてきて、黙祷のあと演奏開始。会場がまだ静かになってないうちにクラヴサンの音が。
第一印象は、なんて煌びやかな音なんだろう!何色もの色の輝きが瞬くような光に満ちた音。
一曲目のルイ・クープランの組曲ニ短調はあまりにも演奏がハイブローすぎて私は着いていけなかった。よく分からないうちに終わってしまった感じ。会場に開演ぎりぎりに入ったので私の心の準備ができてなかったためかもしれない。
二曲目のフランソワ・クープランの第3巻第17組曲ホ短調は、クラブサンの音の輝きがさらに増して、曲もそれほど崩すことなく音楽に浸ることができた。もちろん、クラヴサンの優雅な音楽、ではなく、自在なテンポ、間の取り方、装飾音の入れ方から来る刺激的な音楽である。
三曲目のルイ・クープランの組曲ハ短調はこの日の白眉。テンポや音量を自由自在に操り、音も太かったり細かったり、テクニックも最高。音符と音符の間の取り方の幅がすごく大きい。この演奏にクラヴサンの一層輝きを増した音色が合わさって、興奮が興奮を呼び、心ここにあらず、音楽と音色にもうメロメロ。この時代の曲をこれほどまで刺激的に演奏するとは。最高の体験。この演奏を聴けただけで人生が変わるのではないか?
四曲目のフランソワ・クープランの第2巻第8組曲は三曲目ほどの興奮は無いけれど、すばらしいテクニックを味わい、クラヴサンの輝く音を味わい、美しくもあり刺激的でもあり。複雑な感覚を次から次へと沸き起こさせてくれた。
アンコールは三曲。最後の曲の間の取り方がとても面白かった。終わり方も意表を付かれてしまった。
やっぱりルセはすごい。
美しく輝く音色のクラヴサンで奏でる音楽は、古楽のまさに最前線の極めて刺激的な音楽。弾く姿も、先日のレオンハルトの質実剛健と対極を成すように体を大きくくねらせて感情のほとばしりをそのまま体で表しながら弾く。フランソワよりルイの方が、より自由自在に音を操っていたので、一曲目を十分楽しめなかったのがもったいなくて仕方がない。
会場は雑音が多く、理想的な演奏場所とはいえなかったが、私は、演奏中は、今パリにいるのではないか、という錯覚すら覚えた。この雑音の多い空間を越えて聴こえてくるルセの音楽は一つの宇宙を生み出し、私をそこに誘ってくれたに違いない。
この演奏会にいけて本当によかった。ああ、パリに、フランスに行きたい!
最後に、このようなリサイタルを開いてくれた方々に感謝したい。ルセはもちろん、楽器の作者のマーク・デュコルネ、調律師、日本、そして関西まで楽器を運んでくれた運送会社、茨木市の方々。皆が皆ボランティア。日本のために本当にありがとう。