沼尻竜典オペラセレクション モーツァルト 歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》 びわ湖ホール:KINUZABU-Music
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沼尻竜典オペラセレクション
 モーツァルト 歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》

日時
2012年12月1日(日)15:00~18:30
会場
びわ湖ホール(滋賀県大津市)
 
 
指揮
沼尻竜典
演出
ジョルジュ・シュテルン
歌手
フィオルディリージ:佐々木典子
ドラベッラ:小野和歌子
デスピーナ:高橋薫子
フェランド:望月哲也
グリエルモ:堀内康雄
ドン・アンフォルソ:ジェイムズ・クレイトン
管弦楽
大阪センチュリー交響楽団
合唱
びわ湖ホール声楽アンサンブル
 
 
曲目
モーツァルト作曲
 歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》
パンフレット
 

びわ湖ホールの沼尻竜典オペラセレクション、モーツァルト歌劇《コジ・ファン・トゥッテ》を観た。

むっちゃ面白かった。こんな爽快で、楽しくて、美しいモーツァルトを楽しめるなんてなかなかないと思う。

序曲からのびやかで快活で音色も美しい音楽。沼尻さんの指揮ってこんなに良かったんだ。舞台ではデスピーナの高橋薫子さんが舞台に備品を整えていた。

舞台上には、ソファがあり、上にいくつか白い箱が置いてある。後ろには壁が立ち、6つの大きな時計がかかっていて、時計の上にはJapan,London,Parisなどの地名、壁の下は人の頭が隠れるぐらいの高さまで開いている。時計からは電源ケーブルがとぐろを巻いて舞台上を這っているが、模様の様にきれいに配置してある。さらにその奥には黒をバックに白地に模様を描いた円盤。

壁の下が開いてるって、この前ネットで見たモネの《ルル》みたいだ。

最初の男3人のやり取りは客席通路から始まった。オケから弓を取ったり、指揮者からも掛け金を取ったり。よく見たら、オケピットの壁にウィスキーの瓶やコップを置く台まである。それにしても男性3人はよく声が出ていたなあ。フェランドの望月さんは明るいし、グリエルモの堀内さんは貫禄だし、ドン・アンフォルソのクレイトンさんもいい声してるし、立ち居振る舞いがジェントルマン。彼らが客席で散々遊んだあと舞台上に女性二人が現れる。

まずドラベッラの小野和歌子さんのスタイルに目が釘付け。ワンピースからウェディングドレスに着替えるけれど、その美しさに歌う前からノックアウト。笑顔が素敵で跳ねるようなしぐさが印象的。一方、フィオルディリージの佐々木典子さんは黒い服で重々しく立ち振る舞い、姉妹の対称な性格を出していた。歌も小野さんはのびやかに軽く、佐々木さんはずっしりと重い。

戦場に立つ時の舞台は、合唱がカップルになって行進してきて、女性は羽を伸ばす感じなのに、男性はうつむいている。戦場に行くんだから当然だけどね。戦場へ行く前の合唱が鳥肌が立つほど美しかった。

背景にB-52?が飛び立つ映像が映り、男2人が戦場に立つと、姉妹は外に出かけ、戻ってくるときはドラベッラはブランド物の紙袋を一杯ぶら下げ、フィオルディリージは一冊の本を買ってくる。いや、なんでも対照的だわ。それにしてもヤクルトの空瓶って何?

フェランドとグリエルモが化けて現れるとき、二人はほかの人の顔写真を貼ったボードで顔を隠すようにしていた。顔写真のボードは他にもたくさん出てきた。西洋人、東洋人、黒人・・・誰なのかはほとんどわからなかったが、偉人たちなのかな?。

フェランドとグリエルモが薬を飲んだ後、デスピーナのエレキのお医者様も顔写真のボード(野口英世?)を持って現れ、時計の電源ケーブルを二人に巻きつけてコンセントを差し替えるとビリビリ。このためにケーブルがあったのね。助けてくれてありがとう!を二人とも何故かフィオルディリージだけに向けて歌い、無視されたドラベッラが「私には感謝しないのの!」という感じで楽しかった。一幕最後も時計がぐるぐる回る中、爽快に終わった。

2幕は最初にデスピーナが現れてアリアを歌った。この人ってこんなコミカルな役を歌うんだ。とてもうまい!ずっと前にツェルリーナを聴いたことがあるけど、印象が変わった。幕があがると、姉妹が神経衰弱をしている。でもトランプではなく顔のボードだ!どれにしようかと選んでるんだな。時計は真ん中の二つだけが動いている。

なんだかんだ言ってドラベッラがグリエルモに誘惑されて、2人で森から出ていき、戻ってくるときにははだけたワイシャツをズボンにまとめながら出てきた。そりゃそうだよな。そしてフィオルディリージもフェランドに誘惑されたあと、男三人は客席へ戻る。男三人は、「女は、好きな男がいても、今ここにいなければ別の男にころりと落ちる」という喜劇《コジ・ファン・トゥッテ》を見ているのかな?

デスピーナの公証人が出てきて結婚するとき、小野さんの美しさが輝いていたね。いや、感動的だった。最後は後ろから丸い円盤が再び出てきて、ドン・アンフォルソを除く5人が自分の顔写真のボードを持って歌い、あとからドン・アンフォルソも舞台前に出てきてやはり自分の顔写真のボードを持って歌う。この6人の合唱って最高だね。もう幸せ満点。

ホント、舞台は面白いし、歌もいいし、音楽も快調でモーツァルトを存分に堪能できた。すごいね。こんな舞台はどうしても演出に目が行くけれど、音楽もとってもいい。快調で楽しい。この感覚はモーツァルトならではだと思う。

ただ、音楽的に残念だったのは、独唱とオケがずれることが多々あったことと、もっと軽い声でききたかったこと。オケが軽く快調だったのでそう思った。

演出で書き足りないことを書くと、時計は一日で相手の女を落とす、という期限付きの物語ということを意識しているんだろうと思った。場面の転換ごとに大きく針の向きを変えていたので、残り時間はこれだけだよ、という感じ。また地名を書いているから飛行場を意識している。これは男二人が戦場に飛び立って帰ってくるからだろうね。どこかで飛行場のチャイムでも鳴らせば面白かったかも。

それにしても、最近の演出でオペラを観るのは大変だわ。舞台全体を見てないとどこで何をやっているかわからないし、だからと言って細部をみないと面白い小道具に気づかない。難しいなあ。

とまあ、とても楽しんだんだけど、ちょっとひっかかりがあって、あれこれ考えていて気が付いた。

背景の円盤はアメリカかもしれない。円盤に北米大陸らしき模様が書かれていたし、映像に移っていた爆撃機はアメリカ空軍。仮面をかぶっていたのは日本人歌手だけで、ドン・アンフォルソだけ仮面をかぶらない。最後の6重唱ではあとから列に並ぶ。ドン・アンフォルソ=アメリカで日本人は俺の手の上で仮の平和を謳歌していればいいのさ、という設定が頭に浮かんだ。 うーん、考えすぎで頭がいかれたかな???