Vivava Opera Company ヘンデル歌劇《ロデリンダ》
2013年9月15日(日)15:00~18:30
[会場]
伊丹アイフォニックホール
[指揮]
大森地塩
[配役]
ロデリンダ:老田裕子
ベルタリド:福島紀子
グリモアルド:清原邦仁
エドゥイージェ:山田愛子
ウヌルフォ:村松稔之
ガリバルド:的場正剛
[管弦楽]
バロック・アンサンブル・VOC
[曲目]
ヘンデル作曲 歌劇《ロデリンダ》全曲
酒子「みなさーん、こんにちわー」
伊丹「こんにちは。今日は伊丹アイフォニックホールでヘンデルの歌劇《ロデリンダ》の公演を見に来ています」
酒子「ヘンデルって、音楽室の黒板の上に飾ってあった『音楽の母』のヘンデルですか?だけど音楽を聴いたことはあんまりないなあ」
伊丹「そうですね。名前が知られている割に、ヘンデルがどういう人かあまり知られてないようです。実は、ヘンデルはロンドンで活躍し、たくさんのオペラやオラトリオを作曲していたんですよ。そのうちの一つが今回上演される《ロデリンダ》です」
酒子「うーんぜんぜん知らないなあ。」
伊丹「例えば、『オンブラ・マイ・フ』って聴いたことないですか?『優しい木陰』とか訳されていますが」
酒子「森の木陰でドンじゃらホイってやつですね。」
伊丹「木陰しかあってないです・・・そういう名曲がヘンデルのオペラから引用されていたりするんですよ。」
酒子「で、今日のオペラはどんな話ですか?」
伊丹「簡単に言うと、王妃ロデリンダは、王である夫が政敵に王位を奪われ死んだと思っていますが、その政敵から愛を告白されます。でも政敵には婚約者がいて恋愛関係は複雑。その混乱に乗じて王位を狙う政敵の副臣、政敵の婚約者、王の部下、そして本当は生きている王がでてきます。いろいろあって、王と王妃が再び結ばれ、政敵も許されて婚約者と結ばれ、政敵の副臣は追放される、そういう話です。」
酒子「ぜんぜん簡単じゃないです。『いろいろあって』って何があったんですか!全く。だいたい、出演者の名前がわかりにくいじゃないですか。ロデリンダはいいけど、ベルタリド、グリモアルド、ガリバルドだって。早口言葉かよ!」
伊丹「そうですね。困ったものです。実は私もよくわかりません」
酒子「なーんだ、同じレベルじゃん。それにしては偉そうに説明しやがる」
伊丹「コホン、それでは一つ注意点を。このオペラはダカーポアリアがいっぱい出てきます。これは、A-B-Aの形式で、最初のAと全く同じ楽譜をBのあとに繰り返し歌います。一回目のAでは普通に歌ますが、二回目のAでは歌手の能力を全開にして歌い、歌手の芸を披露する場になります。一回目と二回目の差に魅力があるのですよ。最初は冗長に感じるかもしれませんが、そういう聴き方で楽しんでもらえたらと思います。」
酒子「はーい、楽しんできます」
伊丹「では参りましょう」
(公演)
伊丹「酒子さん、どうでしたか?」
酒子「んーーー、楽しかったんですけど、これまで聴いたオペラとなんか違うような。ダカーポアリアっていうんですか、それがいろんな場面で出てきて、とっても長いの。なんか物語というより、歌がメインのような・・・」
伊丹「そうですね、ヘンデルのオペラは次から次へとアリアが出てきて、筋より歌がメインという感じがありますから、そう思うのもわかります。で、その歌は楽しめましたか?」
酒子「はい、まず、ソプラノの人がすごかったですー、きれいな声で響き渡って、どの曲も最後がキラキラしてましたー」
伊丹「ロデリンダ役の老田裕子さんはもう最高でしたね。透き通る美しいですが、凛とした力強さもあって、ロデリンダにぴったり。歌もノンビブラートで最後の装飾音も高音に挑戦してとてもよかった、バロックオペラの美しさを堪能できました」
酒子「バスの人もドスの利いた低音が響いてきましたー」
伊丹「ガリバルド役の的場正剛さんの声は朗々と響いてましたね。ホールが鳴っているかと思うようなすばらしいバスでした」
酒子「テノールの人も声が大きく響き渡っていましたよ」
伊丹「グリモアルド役の清原邦仁さんはいいテノールですね。明るいけど影があるような声ですが、これまた気持ちよく響く声でした。歌のときもそうですが、レチタティーボのときも声が響いて、声を出すのが楽しくて仕方ないって感じでしたね」
酒子「ああいうのをテノールバk、、あぅぅぅぐぐ」
伊丹「ふぅ。はい、いいテノールでした」
酒子「なにするんですか!ところで、ベルタリド役の福島紀子さんはどうでした?期待していたようですが」
伊丹「そうですね。以前聴いたときはヘンデルの英雄の声を出せる女性だと感激したのですが、今回は、そこまでいかなかった。英雄ぽくはあるのですが、女性の声が混じった感じがして、もう一つ乗れませんでした。歌自体は悪くなかったと思います」
酒子「あと、男の人でも声の高い人がいました。女の人かと思っちゃいましたけど、男の人なんですね」
伊丹「カウンターテナーといって、男の人でもテクニックで高い声を出すことができるんですよ。以前は難しい音域だったのですが、最近は音程、音量ともにいいカウンタテナーが増えています。ウヌルフォ役の村松稔之さんも極めて上質のカウンターテナーでした。ぶれないし、音程も、多少上ずっていたところはありましたが、十分いい。声の質も透明で、私は最初の声を聴いて少年かと思いましたよ」
酒子「でも舞台では棒立ちでしたよねー」
伊丹「うん、ちょっとね。その辺はこれからということで。他の人は百戦錬磨みたいですが、彼はまだ大学院生だそうですから。次に、管弦楽はどうでした?」
酒子「なんかとんでもなく細長ーいギターのお化けみたいな弦楽器がありましたー。あのかっこいいのはなんですか?」
伊丹「テオルボといって、リュートの仲間で低音の弦楽器です。ヘンデルのオペラでは必須なんですよ。確かにかっこいいですよね。」
酒子「でも、管弦楽は、なんか、全体的に音の高さがふらついて聴こえましたー」
伊丹「古楽器といって、古い様式で楽器を調整しているので、音程がずれやすいのです。この団体の管弦楽は、以前はもっとひどくて、聞いているのがつらくなるぐらいだったのですが、今回は幕の途中で調弦をして、それなりにまとめてくれたと思います。あと、舞台はどうでしたか?」
酒子「序曲のときに、一人づつ出てきてライトを浴びて、上に役の名前と歌手の名前が写って、なにこれ?テレビドラマの始まり?って思っちゃいました」
伊丹「私もこのパターンは初めてですが、わかりやすいと思いました。序曲は歌や演技がないので、間をもてあますところではあるんです。今まではあらすじとかを投影していたと思うのですが、今回は出演者紹介でした。これもありだと思いますよ。筋を頭に入れてなくてもわかりやすくなりますし」
酒子「ついでに紹介の後に、『この上演は○○の提供でお送りいたします』ってやったらいいのにー」
伊丹「そうしたら、協賛金がもっと集まったかもしれないね・・・」
酒子「あとですねー、アリアのときってすごく長いじゃないですかぁ。その間の歌手の動きが少なくて、間をもたすのが大変なんだなーと思いました」
伊丹「確かにそうですね。ヨーロッパの演出では、そういうところが演出家の腕の見せ所で、どう見せるかを競っている感じです。ここでは、そこまで期待するのはちょっとね。他にはありませんか?」
酒子「舞台に場面に合った絵を投影してくれたので、雰囲気がわかってよかったですー」
伊丹「あれはいいと思います。毎年やってますが、わかりやすく、かつ、簡単で安く済む。零細オペラ上演では必須ですね。今回は、スクリーンを左右に分けて、字幕専用を設けるなどいろいろやってました。影絵もありましたし。でも映像を作る人は大変でしょうね」
酒子「そういえば、みんな最初から最後まで同じ服を着てましたよね。ロデリンダなんて、牢獄に来るときもドレスを着ているなんて、なんか変な感じ」
伊丹「同じ服装だと人の区別が付けやすいでしょ」
酒子「で、伊丹さんはこの公演についてどう思ってますか?」
伊丹「ヘンデルのオペラ公演として大変満足できるいい公演だったと思います。なんといってもロデリンダ役の老田さんが声も立ち姿も凛として美しい。技巧をちりばめて心を鷲掴みされましたね。そのほかの役の人も水準以上で歌はとても楽しめました。管弦楽もこれまでの公演と較べると気合が入ってました。この管弦楽なら許容できます。舞台についてはいつもより手が込んでいて、序曲で登場人物を紹介するなどアイデアが面白かったです」
酒子「十分満足できたってことですね?」
伊丹「はい。私はヘンデルのオペラが大好きなので、どのアリアを聴いても、ああ、ヘンデルだ、と思って、しみじみと聴いていました。聴いているだけで幸せ感がこみ上げてくるんですよ。やっぱりヘンデルっていいなって」
酒子「また泣き虫オヤジだ。まあ、確かにきれいな曲が多くありました」
伊丹「既に言いましたが、ヘンデルのオペラって、ヘンデルが作曲したたくさんの宝石をちりばめたような美しいアリアがあり、それを聴かせることがメインで、筋は付けたしみたいなものだと私は思ってます。そして筋にふさわしい位置にアリアを配置してその時の感情をアリアに込める。それに痺れるのですよ。この快感はたまらないです。それが十分に味わえたいい公演だったと思ってます」
酒子「そうかぁ、アリアがメインで、筋は二の次だってことですね。そういえば、あこがれの彼を誘って映画に行ったことがあるんですが、彼が横にいるだけでドキドキして映画の筋が全然わからなかったんですー。それと一緒ですね?」
伊丹「多分、一緒、というか、普通のことですよ」
酒子「ところでこの団体の公演はこれが最後とのことですが」
伊丹「そうなんですよ。これまで毎年この団体がヘンデルのオペラを上演してくれたから、毎年楽しみにしていたのですが、来年からはありません。次はいつヘンデルのオペラを聴けるのかと思うと悲しくてなりません」
酒子「またそのうち聴けますって」
伊丹「そうですね。これからオペラ公演が増えて、少しでもヘンデルのオペラも上演されるように、しっかりオペラを観に行きましょう!」
酒子「そうですねー、だから、またオペラを観に行きましょーねー」
伊丹「オペラを観に行きましょーねー(涙)」
B「はい、またオペラを見に行きましょーねー」