びわ湖ホール・プロデュースオペラ ワーグナー作曲楽劇《ワルキューレ》:KIUZABU-Music
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びわ湖ホール・プロデュースオペラ
 ワーグナー作曲楽劇《ワルキューレ》

[日時]
  2013年9月21、22日(土)14:00~19:00
[会場]
  びわ湖ホール大ホール
  
[指揮]
  沼尻竜典
[演出]
  ジョエル・ローウェルス
  
[配役]
  ジークムント:福井敬、望月哲也
  ジークリンデ:大村博美、橋爪ゆか
  フンディング:斉木健詞、山下浩司
  ヴォータン:青山貴、グリア・グリムズレイ
  ブリュンヒルデ:横山恵子、エヴァ・ヨハンソン
  フリッカ:小山由美、加納悦子
  
[管弦楽]
  日本センチュリ交響楽団
  神奈川フィルハーモニー管弦楽団

[曲目]
  ワーグナー作曲 歌劇《ワルキューレ》全曲
パンフレット
 

びわ子「みなさーん!こんにちわー」

おおつ「こんにちわ。今日はびわ湖ホールでワーグナーの楽劇《ワルキューレ》に来ています」

びわ子「ワーグナーってどんな人なんですか?」

おおつ「借金を踏み倒し続けた挙句、バイエルン王に借金を肩代わりさせて、自分の作品専用の歌劇場まで作らせた詐欺師です。弟子の奥さんを寝取ったりもしました」

びわ子「おおつさん、ワーグナーにうらみでもあるんですか?」

おおつ「いえ別に。そんな詐欺師でも、とてつもない音楽を生み出して、オペラの世界に奔流を巻き起こして、多くの人々を虜にしました。世界中に熱狂的なファンがたくさんいるのです。日本でも人気で、今回の公演も日曜日はほぼ満席でした」

びわ子「そんなにすごいんですか、では、今日のあらすじを教えてください」

おおつ「ええっと、大変面倒なんですが、まず、この物語の前に話があるんです。《ワルキューレ》というのは《ニーベルングの指輪》という上演に4日かかる作品の2つ目の楽劇なんです。1つ目の楽劇では、それを持てば世界を支配できるいう指輪が出てきます。神々の王ヴォータンがその指輪を手に入れたけれど、巨人族に奪われて、それがもとで神々の世界が崩壊しかかっていることを知ります。この《ワルキューレ》というのは、その崩壊を食い止めるために、ヴォータンが行った策略の話なんですよ」

びわ子「え?前の話?このオペラだけで4時間ぐらいあるんですけど、全部だともっと長いの?

おおつ「長いんですよ、ホントに。でもこれを見に行っちゃうんですよね。麻薬と言うか・・・」

びわ子「ふーん、まあ、それはいいから、《ワルキューレ》のあらすじを教えてくださいっ」

おおつ「ヴォータンが運命の神ノルンに産ませた生き別れてなっていた双子の兄妹が再会します。妹は敵の妻になっていますが、兄妹は生き別れた相手と知るとともに愛し合い、ヴォータンから授けられたノートゥングの剣を持って逃亡します。これで第1幕終わり」

びわ子「兄、妹って近親相〇じゃないですか!!!」

おおつ「倫理的には問題ですけどね、でもこれが一番いいような気がしてしまうんですよ。次に第二、三幕ですが、ヴォータンの妻で夫婦の神のフリッカが兄妹を許さず、ヴォータンも折れて兄妹を見捨てます。でもヴォータンの娘ブリュンヒルデが兄妹を助け、兄は死にますが、妹は二人の子供が宿っていることを教えられ、東の森へ逃げます。ヴォータンは命令を守らなかったブリュンヒルデを炎の岩山に閉じ込めて終わりです」

びわ子「ふーん、これが4時間ですか?なぜそんなことになるの?」

おおつ「会話が長いんですよ。ほかの人から見れば妙に長い会話かもしれませんが、ワーグナーが好きな人はこれぐらい長くても大丈夫、というか、長い方がいいぐらいかもしれません」

びわ子「なんかディープな世界ですね。とりあえず観てみます」

おおつ「このオペラを楽しむコツといっては何ですが、一つの場面が長いですし、音楽にしても舞台にしても情報量が多く、音も桁外れにでかいです。ですから、あまり細かいことにとらわれずに全体を体で感じてください。では行きましょう」

びわ子「難しいことをさらっと言うなあ。じゃあ行きます」

(以下、二日とも観た後の会話です)

おおつ「さて、感想は???」

びわ子「オーケストラピットって人がいっぱい入れるんですね」

おおつ「えっと、、、たくさん入れないとワーグナーの管弦楽がなりたちませんよ、っていうか、そこが一番の感想なんですか?」

びわ子「あんな狭いところでよく楽器弾けるな、とも思いました」

おおつ「・・・じゃあ、順序だてていきましょうか、まず、歌手はどうでしたか?」

びわ子「えーっと、なんて言ったらいいか、、、どの人も良くあんなに声を出せるなーと思いました。特に二日目の片目を隠していた人の声がすっごくデカくてびっくりしました。体もデカかったですー」

おおつ「二日目のヴォータン、グリア・グリムズレイはホントにすごかったですね。大きな体から湧き出る朗々とした声。声の質には気品があって悲しみまで感じました。音程もばっちりで、こんなすごい人でヴォータンを聴けたというのはすごくいい体験でした。一方で、一日目の青山貴さんもすばらしかったですよ。威厳があって、堂々として。こちらを聴けただけでも満足です」

びわ子「最初に出てきた男の人もかっこよかったですー」

おおつ「ジークムントの福井敬さん、望月哲也さん、タイプは違いますが、見事な英雄でしたね。でも私にはどちらも音程が気になりました。野球のピッチャーでいえば、福井さんは、直球一本剛速球で球が燃えているけど、浮き気味。望月さんは、スライダーでキレがあるけど、少荒れ球。どちらも空振り三振を取れる。私は福井さんの体から放射されるオーラに痺れました」

おおつ「ジークリンデやブリュンヒルデはどうでしたか?」

びわ子「一幕で出てきたソプラノの人と二幕で出てきたソプラノの人もなんかもうびっくりです―、声でかいしー、きれいな声だしー」

おおつ「ジークリンデは木村博美さんも橋爪ゆかさんも、美しい声で、絶叫調になることなく、のびのびと歌ってました。特に橋爪さんは可憐な感じがして好きです。ブリュンヒルデの横山恵子さん、エヴァ・ヨハンソンとも大変な役なのによく声が出てましたね。ヨハンソンの声質に不満はありましたが、こんな声の饗宴でワーグナーを楽しめて、すっごく幸せです」

びわ子「不満?」

おおつ「私にはヨハンソンのキンキンな声が気になって、あまり楽しめなかったんですよ。だから最後のヴォータンとの二重唱もあまり感銘を受けませんでした。演技もあの人だけ馴染んでなかったですし」

びわ子「ほんま、いつも文句言いやな、このオヤジ」

おおつ「何かしら不満は出るものですよ。今回の公演は不満が少ないと思います。」

びわ子「それにしても、どうしてあんな大きな声を出せるの?みんなで大声大会でもしているの?って感じ。でも叫び声じゃなくて、しっかりきれいに歌えるんでよね。すごなあ」

おおつ「おなかの筋肉を鍛えているそうですよ」

びわ子「おなかの筋肉って、毎日起き上がり腹筋300回とかしているんですか?体育会系?」

おおつ「それで鍛えられるのとは違う筋肉だそうです。体が資本ですから体育会系かも。」

びわ子「青い服の怖いおばちゃんがなんだか怖かったですー」

おおつ「すごかったですね。フリッカはこのオペラの流れを変える重要な役ですが、小山由美さんも加納悦子さんもその権力にふさわしい威厳に満ちてました」

びわ子「一日目と二日目と歌手が変わりましたが、そのへんはどうだったんですか?」

おおつ「歌の面ではジークフリートの福井さんと、ブリュンヒルデの横山さん、ヴォータン役の青山さんが歌った一日目のほうが私の印象はよかったです。もちろん、二日目も、ヴォータン役のグリムズレイの圧倒的なバスやジークリンデ役の橋爪さんの可憐さはすばらしかったです」

おおつ「次に管弦楽はどうでしたか?」

びわ子「こっちも音がすごく大きかったですー。特に太鼓。あと、弦がきれいでしたー」

おおつ「ティンパニの音はすごかったですね。爆発、というか、噴火というか。ずいぶん引き締まりました。金管、木管も美しかった。私は弦の音に酔いました。ワーグナーは分厚い弦が魅力です。龍が湧き上がってくるようなうねる弦。最高でしたよ」

びわ子「指揮の人もしゃきしゃきしてましたねー」

おおつ「沼尻さんはしっかりと拍子をとって、ずっとハイテンションで音楽を組み立ててました。弱音はやわらかく、強奏では大爆発。第一幕の前奏曲が始まったとき、これはすごいものが聴けると震えました。演出の都合なのか少し間延びしたと思えたところもありましたけど、あの指揮はワーグナーを聴く魅力にあふれた最高レベルのものだと思いました」

おおつ「最後に演出についてはどうですか?」

びわ子「場面転換がなんどもあって、新しい舞台が出るたびに張りぼてが変わっていて、中の人は張りぼてチェンジで大変なんだろうなと思いましたー」

おおつ「張りぼてじゃなくて『舞台装置』と言って下さいね。パンフレットには『映画の手法』を使ったと書いてました。確かに、過去と現在を同時並行に舞台に現すというのは、ある意味わかりやすい話です。ジークリンデがどんなひどい目にあったかが一目瞭然でした。問題は、場面転換の都度幕が下りて舞台を変えるので、時間がかかり、装置の移動のガタガタ音がしたこと。その分、音楽を遅くしていた感じがしましたし、音楽に集中できませんでした」

びわ子「女の子が焼けた家の横で震えてたり、そこにおっさんたちがやってきたりって、東へ逃げた女の人のの過去なんですか?」

おおつ「そうでしょう。ジークリンデの過去を舞台に出すことで、彼女のトラウマを強く印象付けているのだと思います」

びわ子「最初のオーケストラの時、テーブルを囲んで団欒している中に、1回死んだ男の人が飛び込んできましたが、なんですかあれ?」

おおつ「それは最後のお楽しみです」

びわ子「一幕では丸太小屋に飛行機みたいなものが突っ込んでましたが、あれは何ですか?」

おおつ「それも最後のお楽しみです」

びわ子「なに!最後ばっかじゃん!」

おおつ「まあ、最後まで見ないと納得できないところがあるんですよ。最後まで見ても納得できないときも多くありますが」

びわ子「めんどくさいから、どんな演出だっか教えてよ。140字以内で」

おおつ「140字ですか?うーん、ではこんなのでどうでしょう。

『最初にジークリンデがいて、ヴォータンは彼女を守らせるためにジークムントを派遣。それをフリッカが妨害。なんとかジークリンデに子を宿らせ、ブリュンヒルデが東の森に逃がす。命を破ったブリュンヒルデは木に幽閉、守ったジークムントはヴォータン一家に戻る』

なんとか140字に収まっていますよね?ポイントは、ジークムントが、ジークリンデと違って、もともとヴォータンの一家の一員で、ジークリンデを守るためにヴォータンから派遣されていた、ということです」

びわ子「最初と最後で同じシーンが出てくるのはなぜ?」

おおつ「ヴォータン家族の平安が第一という演出だと思うので、それを明確にしたかったとか」

びわ子「じゃあ、丸太小屋の飛行機のみたいなものは?」

おおつ「ジークムントが派遣されるのに用いられたとか。朽ち果てていたので、ジークムントはジークリンデの誕生と同じ時に派遣されたのかもしれません」

びわ子「フンディングの館は何故丸太小屋だったんですか?」

おおつ「舞台が、西部劇で出てくる古いアメリカっぽかったので、丸太小屋でもいいのかなと。フンディングも山賊って感じでした。兵士が出てくるから南北戦争の時代でしょうか。」

びわ子「そういえば、一瞬、兄妹が逃げるのが見えたけど、昼間の砂漠みたいでした。とても暑そう。西部劇ってあんな場所出てきますよね。ガラガラヘビがいたりして」

おおつ「あれは印象に残りましたね。厳しい逃亡ですから、説得力大です」

びわ子「兄妹がお互いに叫びあっていたときに、紺色の服を着た怖いおばちゃんが出てきましたー」

おおつ「『冬の嵐は過ぎ去り』の歌で兄と妹の出会いの喜びを歌っていたときに、フリッカが現れて、『こいつらは私の手の内にある』みたいな感じで現れるんです。ぞっとしました。普通はここでフリッカは出てきませんからね。ジークリンデが羽織っていた毛皮のベスト?を忌々しげに杖で持ち上げていたのも、気持ち悪かった」

びわ子「他には何かありましたか?」

おおつ「そうですね。3幕のワルキューレたちの演技がいきいきとしてました。ひとりひとりしっかりと演技をして、歌もきれいに歌い分けてましたね。

また、ブリュンヒルデの子供姿が現れるところで、ヴォータンから逃げてましたよね。ブリュンヒルデは実はヴォータンが嫌いだったのかもしれません。

あと、3幕後半ヴォータンとブリュンヒルデが話をしているときに、木の下に家族が集まってきて、ヴォータンを一瞬それを見て安心するけど、その後振り向くと誰もいない。家族を守らないものは家族から見放されるってことかなと思いました」

びわ子「やっぱり家族の平安が一番ってことですか?」

おおつ「そんな感じがしました。不義を働くと家族から見放される、という印象です」

びわ子「えらく、保守的ですねー」

おおつ「保守的ですね。でも、《ワルキューレ》って、家族を省みないヴォータンではなく、夫婦の神フリッカが勝つのですから、そんな話かもしれません。もちろん、上記の演出の解釈は私が勝手に考えたものですのあしからず」

びわ子「では、おおつさん、全体的にどんな印象を持ってますか?」

おおつ「日本人キャストメインでこんなハイレベルのワーグナーを見られるとは思っていませんでした。管弦楽はワーグナーの要求する壮大な音楽をしっかり演奏してくれました。

歌手の方々は全員すっきりと聴けました。グリムズレイという突出したバスもいましたけど、周りもしっかりしていて大変楽しめました。

演出は、幕の上げ下げや場面変換のがたがたがうっとうしかったですが、それなりに面白い試みかなと。ということで、オケよし、歌手よし、演出まあまとそんなところですね」

びわ子「指揮者の沼尻さんは?」

おおつ「いや、もう最高でした。オケも歌手も完全に掌握して音楽を際立たせてましたね。こんなすごい指揮者がいてくれるだけで幸せいっぱいです。実は、1年ほど前まではぴんと来なかったのですが、最近はつぼにはまってきました。どんどんよくなって、生き生きと輝いているように思ってます。

おおつ「びわ子さんはどう思いましたか?」

びわ子「なんかよくわからなかったけど、面白かったですー。声もオケも大音響で、それが長く長く続いて、楽しかった。でも、正直ぐったりなんですよねー、みんなパワーあるなと思いましたー」

おおつ「聴く方もパワーがいりますよね」

びわ子「はい。ところで、女の人が宿した子供はどうなるんですか?」

おおつ「これからの楽劇の主役として活躍するんです」

びわ子「え、もしかしてこのオペラって、主役を作るためだけにあるんですか???」

おおつ「そういえば、そうかな」

びわ子「えぇ!まじかよ!!このくそ長いオペラが前座ってかぁ!!!信じられんわ。ドイツ人の考えていることはさっぱりわからん」

おおつ「確かに、あちらのかたがたはパワーありますからね。ワーグナーを聴いていると、実感できるような気がします」

びわ子「ふーん、じゃあ他のワーグナーも聴いてみようかな」

おおつ「聴いてみましょうよ。ワーグナーは麻薬ですから虜になってしまいますけど、それも楽しいですよ」

びわ子「よし、またワーグナーを聴くぞ!」

おおつ「ワーグナーをいっぱい聴いて、ワーグナー中毒になってください(こうやってワグネリアンが増えていくんだろうな)」

びわ子「ん?中毒は嫌だけど、そんな世界もいいかも!だからまたオペラを観に行きしょうねー」

おおつ「オペラを観にいきましょうねー」