ボローニャ歌劇場来日公演《カルメン》
ミカエラ:ヴァレンティーナ・コッラデッティ
ドン・ホセ:マルセロ・アルバレス
エスカミーリョ:カイル・ケテルセン
NHK児童合唱団
今年は久々にびわ湖ホールで外来オペラの引っ越し公演があるということで楽しみにしてた。しかし東日本大震災の影響で、キャンセルするソリストが続出し、カルメンでも主要3人が入れ替わってしまった。
カウフマンは比較的来日しないという表明が早かったし、METでも来日しなかったので、招聘側も先に動いていたのかもしれない。しかし、その後に雪崩打つようにキャンセルの嵐。ちょっと参った。
結局、カルメンでは以下のように変更された。
カルメン:ニーノ・スルグラーゼ(変更なし)
ドン・ホセ:ヨナス・カウフ → マンマルセロ・アルバレス
ミカエラ:アレッサンドラ・マリアネッリ → ヴァレンティーナ・コッラデッティ
エスカミーリョ:パウロ・ショット → カイル・ケテルセン
ということでどんな公演になるのか大変心配だったのだが、私は大変満足した。歌手の凹凸はあったが、アルバレスの声と何より指揮の素晴らしさとオケの頑張りがこの公演に満足できた大きな要因だと思う。
歌手は、なんといってもドン・ホセのアルバレス!声量があって、情感がこもって、正確な音程。何よりも表現力がすごい。典型的なイタリアンテノール。ホセの心情が心に突き刺さる歌。本当にいい歌手を連れてきてくれたものだと思う。
次はカルメンのスルグラーゼか?声量はもう一つだが、カルメンの華と意志の強さが光る。見た目も踊りもよい。ハイヒールを履いてよく踊れるものだと思う。相手がアルバレスでなければ、もっと印象は良かったかもしれない。
エスカミーリョのケテルセンは、最初は声がこもってもう一つだったが、そのうち抜けるようになって、よくなった。代役としては十分満足できるレベルだろう。役にあった体型だったこともポイントが上がる。
問題はミカエラのコッラデッティ。見た目が太くミカエラ?と思った。声量があるが一本調子。たくさん拍手をもらっていたが、私にはもう一つだった。
でも、代役ばかりという公演としては歌手もそれなりに良かったと思う。
次に指揮。ミケーレ・マリオッティという指揮者はすごい。序曲からすでにその片りんを見せていた。非常に細やかにドライブする。細かな指示を出し妥協のない音楽を作り上げていた。4幕のホセとカルメンのやり取りの迫力はすごかった。怒涛のように押し寄せる音楽。思わず舞台にのめりこんでしまった。
私には《カルメン》というとMETの引っ越し公演でも、バルツァの歌うウィーンの公演でもいい思い出がない。今回初めて感激したのは、やっぱりオペラは指揮よかったからだと思う。オペラは指揮がしっかりしてないとだめだと思った。
次にオーケストラ。素晴らしい指揮者に引っ張られているのか、細部まで美しい音を出していた。弦の官能、木管の美しさ、金管の咆哮どれをとっても、渋く美しかった。こんなオケの音で聴くオペラは最高。
合唱。オケと合わないところもあったが、全体的にまとまっていた。びっしっと合い迫力のある合唱はいいなあ。
最後に演出。
舞台の幕はキューバの国旗になっていた。
第一幕はキューバのたばこ工場という設定。この場面はすでに広まっているのでおなじみ。起こることも、キューバという以外は特記することはない。ホセがサイドカー付のオートバイを引いて登場したぐらいか。
第二幕はバー「セビリア」で仲間たちが集まっている。そこにエスカミーリョがボクシングチャンピオンとして現れる。虚を突かれて大変驚いた。ここがスペインとキューバの違いか、なるほど。
第三幕は海岸でキューバからアメリカへの密航の準備。密輸はアメリカに密航して行うのか。カルメンがアメリカの国旗風の服を着て現れるのがおもしろかった。
第四幕はキューバの競技場で、ボクシングの試合が行われる。凶器はナイフではなく、売店にあるジュースのビンを割って首に刺す。最後は幕が下りるまで二人だけ。他に誰も来ないだけに、ホセの嘆きが強く印象に残る終わり方だった。
スペインからキューバに場所を変え、闘牛士がプロボクサー、密輸は海からアメリカへ密航。筋は通るし面白い。最後のホセの嘆きには涙が出た。いい演出だったと思う。
ということで、大変いい公演を味わえた。でも元の配役ならもっと良かったのかと思うと少し複雑な気分はする。