びわ湖ホールプロデュースオペラ、ワーグナー《タンホイザー》、沼尻竜典、ミヒャエル・ハンペ2012年3月10日:KINUZABU-Music
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びわ湖ホールプロデュースオペラ ワーグナー《タンホイザー》

日時
2012年3月10日(土)14:00~18:30
会場
びわ湖ホール大ホール(滋賀県大津市)
 
 
指揮
沼尻竜典
演出
ミヒャエル・ハンペ
 
 
配役
領主ヘルマン:妻屋 秀和
タンホイザー:福井 敬
エリーザベト:安藤 赴美子
ヴェーヌス:小山 由美
ヴォルフラム:黒田 博
 
 
管弦楽
京都市交響楽団
パンフレット
 

びわ湖ホールでびわ湖ホールプロデュースオペラ、ワーグナー《タンホイザー》を見た。

プロデュースオペラにしては結構混んでいた。関西の人はオペラに飢えているのかもしれない。私も残り少なくなっていたのであわてて買った。

まずは序曲の京響が素晴らしい。最弱音が美しく、こんな音の金管が聴けるのはなかなかない。迫力はもっとあっていいと思うけど、指揮者の解釈かな?序曲の後に一旦音楽が切れて拍手が出た。ワーグナーに拍手は似合わん。

第一幕第一場。ピンクのベールに包まれて、タンホイザーとヴェーヌスの周りをバレエが踊る。バレエが結構長かったから、ドレスデン版と言っても初版ではないような。福井さんは最初から飛ばす飛ばす。こんなに太く強い声の人だったか?と思った。でも最後まで続くのかなあと心配にもなった。小山さんはいつものヴィブラートの激しい声。絶叫調にはならなかったとはいえ、この声は好きになれない。舞台は、エファーディングの《パルシファル》2幕を思い出してしまう雰囲気。

第一幕第二場に至る間奏曲も京響がなかなかいい雰囲気。ワーグナーの管弦楽っていいな。

で第二場。なんじゃ、このチープな装置は?手抜きに見えてここを見ただけで帰りたくなった。上手から下手に下り坂になって背景は山。下手にタンホイザーがいて、牧童が笛を吹く。思った通り坂を巡礼が通り、ヘルマンたちが狩りをして、ハインリッヒを見つける。なんかなあ、そのものやなあ。もうちょっと工夫があってもええんとちゃう?

30分休憩後第二幕。すっきりとした序曲のあとエリーザベトの登場。安藤さんは歌もいいがエリーザベトにふさわしい背の高いすらっとした容姿。あの体でエリーザベトが歌えるもんだ。でももう少し声に透明感がほしいな。ハインリッヒ登場でエリーザベトの威厳も十分。日本もいい歌手がどんどん出てくる。この後ヘルマンの高貴で美しく朗々と響き渡る声にしびれた。すごい歌手だわ。

観客登場のシーンもハインリッヒがヴェーヌスベルグへ行ったことが分かった後の管弦楽も合唱も迫力満点。でも、なんかイタリアオペラの合唱を聴いているような感じがした。少なくともワーグナーの官能とは違う。最後、福井さんは「ローマへ」というところで声が出なかった。そろそろ疲れてきたのかな?

30分後第三幕。第一幕一場のチープな舞台がまた出てきた。下手ではエリーザベトが祈っている。黒田さんの夕星の歌はまあまあかな。巡礼の合唱も素晴らしい。オケと合唱がいいと舞台が引き締まるわ。

ハインリッヒのローマ語りではさすがに福井さんも苦しそうだったが、しっかり歌っていたと思う。これだけ最後まで歌えたら立派なもんだろう。満足のいくタンホイザーが聴けたと思う。

ヴェーヌスベルグが表れるところでは、坂道を覆うように白い煙が出てきてそこに赤い光を当てて急変させていた。世界の変化が簡単に分かりやすく表現できこの部分の演出はよかったと思う。白い煙はすぐ消せるしね。演出では唯一感心したところか。

最後は杖の先に青葉が茂った奇跡の杖を持ってきて、タンホイザーはそれに触れてからエリーザベトの棺の上に倒れて死ぬ。これでいいんだけど、あまりに忠実すぎて釈然としない。最後のオケと合唱はよかったけれど。

今回の舞台は、演出が超保守的で、いたるとこにどこかで見たような雰囲気の場面があった。保守的になると仕方がないのだろうけど、この舞台をはミヒャエル・ハンペという大御所を連れてきて大金払って制作するっていうのもなんか釈然としない。舞台はサンディエゴのを持ってきたそうだが、二期会と共同でやっているなら、大御所に大金払うより国内でしっかりやるほうがいいと思った。

また、今回の公演では私にはワーグナーの官能、陶酔はあまり感じられなかった。2幕の終わりの合唱などイタリアオペラかと思った。これはおそらく、曲の流れだと思う。ワーグナーはダイナミックに音の強弱が変化しながら進行し、イタリアオペラは流麗なのかなと思った。その流麗さがワグナーらしくないと思った原因だろう。これは指揮者の解釈の問題だろうな。沼尻さんの指揮はいつもつかみどころがない。いいところと悪いところが混在し、高揚と落胆を繰り返す。

ただ、管弦楽は雰囲気も迫力もよく音色もこれ以上望めないようなすばらしいものだったし、合唱も力強く美しい。そして福井さんや安藤さん、妻屋さんの最高の歌。これらのおかげでいい音楽を聴けたと思う。また、散々こき下ろした演出も、端役に至るまでしっかりと演技がつけられていて、びしっとしていた。どこかの生ぬるい動きが目立つところとはえらい違いだと思ったが、練習量の違いなのかもしれない。

今回の公演は、いいところもたくさんあったとはいえ、ワーグナーとしては楽しめなかった。やっぱり、オペラは音楽も重要だけど、指揮と演出も重要だなと思った公演だった。