イーヴォ・ポゴレリッチ ピアノリサイタル
リスト 森の居酒屋での踊り(メフィストワルツ第1番)
ショパン ノクターン
リスト ピアノ・ソナタ
5月13日の名古屋のしらかわホールで行われたポゴレリッチのリサイタルに行ってきた。
えっと、最初に言い訳しておくが、私はこれまでピアノのリサイタルをほとんど聴いたことがない。こんな私の感想だから、変なところも多いだろうが、その辺は大目に見て頂戴。
開場に入ると、ピアノ音がなっている。ぴーん、ぴーん、ぽーんと1音ごとの間隔が長い。多分ポゴレリッチなんだろうなと思っていたら、隣の人が、話しているのが聞こえて、舞台上でリハーサルをやっているそうだ。ホールの響きを確認しているのだろうが、音のきらめきは感じられず、本番でこんなピアノを出されたらどうしようと持ったが、杞憂もいいところ。
会場を見渡すと、ほぼ満員。2階席右サイドだから、大体雰囲気はわかる。もっと少ないんじゃないかという予想は見事に外れた。
最初は、ショパンの2番のソナタ。一音目から輝く音にびっくりした。強い音がくるとさらに強い音が、でまた更に強い音が、どこまで強い音が続くのか。一方弱音は壊れてしまいそうなほど柔らかではかない。リズムも自由自在。特に、長い長い余韻の後にピーンと強い音を出すのは、何時次の音が来るのかとドキドキしながら聴いていた。早いパッセージは極めて早く、高音になると光が増し、低音も高音もバランスが良くて、美しい。
いろいろやっているけれど、極めて美しい音は何時までも変わらず、この音をずっと聞いていたいので、目をつむり、音に集中して聴いていた。2階サイドからはまともに演奏姿は見えないし。
葬送の音楽が流れたけれど、とても激しい葬送で、力が入った。でもここは、他の部分より結構普通に弾いているなと思った。実は私が事前に知っていたのは葬送だけ。それ以外は全部聴いたことのない曲だったのね。そのせいか、その他の曲はとても新鮮でエキサイティングだった。
長い長い余韻の後にピーンと突然大きな音を出すところは、とても緊張して聴いたが、ヴィスコンティの映画《ルードヴィヒ》の音楽を思い出した。あの映画も、ずっとあんな感じの緊張感のあるピアノが全編になっていたような気がする。
また、高音の光輝くパッセージにはそこから光が放出されているような感覚をもった。ピアノの光。美音を追求すると、こんな奇跡が起こるものなのかもしれない。
何処までも強くなっていく極めて力強い音、柔らかで弱く今にも壊れそうな音、極めて早いパッセージを超絶技巧で弾きながら決して濁ることのない美しい音、音が完全に消え入るまで余韻を残し急に強い音をピーンと鳴らす強い緊張感の連続の音、柔らかい高音のパッセージからあふれる光り輝く音。まだまだあったかもしれない。
1人のピアノからこれだけたくさんの音を聴けるとは思わなかった。それもこんなに個性的かつ美しい音の連続で。
アンコールもなくリサイタルは終わったが、最後は満場大喝采だった。
初めて聴いたポゴレリッチについて感じたのは、彼は彼の求める美音と美しいフレーズをどう演奏すれば実現できるかを考えに考え抜いて、リサイタルに臨んでいるのではないかということ。誰でもそうなんだろうが、その考えるレベルがはるかに高くかつきわめて個性的だ。きっとその高みをいつまでも求めていくのだろう。
だが、聴衆が邪魔になって、グレン・グールドのように録音の世界に閉じこもってしまうのが怖い。グールドの姿勢に近いものを感じたからだが、一方でそれはなさそうな気もする。
ともかく、今は、彼のピアノを聴けた幸せをかみしめている。また、この奇跡のような場に立ち会えることを願っている。